第2章 優しい約束、哀しい約束
料理はできねぇわけじゃねぇ
する必要がねぇだけだ
熱した鍋に卵液を注げば、ジュッと音がして甘い香りがたちあがった
匂いからして甘いのがわかる
「砂糖入れすぎたか?」
カステラみてぇな甘い香りの卵をクルクルと巻いていると
「天元様ー!何しているのですかぁ!?あれ?卵焼き?卵焼き作ってるのですか?」
「まぁな。甘い卵焼きもたまにはいいだろ?」
匂いに釣られてやってくる奴がいる
こいつは須磨だ
小せえ犬みてぇに俺に絡んでくる
3人いる嫁はそれぞれに合ったやり方で俺を支えてくれている
だがこいつらにも人生がある
里から引っ張ってきたわけだが、それぞれ思う道をいってもらいてぇ
俺の勝手に付き合わせてきたわけだ
この卵焼きみてぇに甘いとは程遠い時間だった
「ぁあっ!!天元様!焦げちゃいますよぉぉ」
「いっけね!」
あいつもそうだろう
抱えてる闇は深そうだ
あんな夜更けに女一人
考えられる理由は一つだ
夜しかできねぇ逢瀬だろう
相手の男も大バカ野郎だが、薫も大概だ
そんな野郎に対して惚れてるわけでもなさそうだってのに体を預けている
そうしなきゃならねぇ理由があるんだろうが
幸せになんてしてもらえねぇ
あの手の男はバツが悪くなりゃ簡単に切り捨てる
そのくせ都合良く愛を囁くもんだ
胸糞わりぃ
「天元様?卵焼きそろそろよさそうです!」
「おっと、そうだったな。ちっと焦げたか?」
菜箸でくるっと裏を見てみれば、こんがり焼き目がついていた
こりゃ焼きすぎだわな
「ちょっと焦げてるくらいが美味しいですー!で、天元様どうして卵焼き?」
「可哀想な捨て犬がいんだよ。」
「捨て犬?犬にこんな甘いのあげちゃダメです!」
「はっ!例えだよ。例え。ちょっと食ってみな」
小さく切って須磨の口に放ってやると
「天元様…これ甘すぎますぅぅ!!お菓子みたいですぅ!」
だろうな
すげぇ甘い匂いだったしな
「いいんだよ。これで。大成功だな」
「よくわかりませんけど、お犬ちゃん喜んでくれるといいですね!」
甘すぎると文句を言ったくせにもう一口と口を開ける須磨
あいつは、いつまでこうやって楽しく卵焼きを食べてたんだろうか