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綾なす愛色【鬼滅の刃】

第2章 優しい約束、哀しい約束





花々に見惚れていた俺を現実に戻したのは、薫さんの足音だった
軽く駆けるようにパタパタと音を立てて、居間を通り過ぎていった
薫さんは、縁側にいる俺の存在に気づくことなく過ぎて行きそうだった
俺は思わず薫の名前を呼び引き止めた
目を丸く開き驚いたものの、薫さんは優しく微笑み

「杏寿郎さん?どうしたの?天元さんは?」と問うた

普段と違う雰囲気を纏った薫さんに息を飲んだ
洋装は薫さんを明るく見せた
違うな…薫さんが見せる笑顔だ
今日を心から楽しみにしていると言った笑顔
俺には輝いて見えた

俺は女性との親密な付き合いの経験がない
女性は本音を隠すことに長けていると聞いたことがある
だが、俺にはわかる
今の薫さんの笑顔は一点の曇りのない快晴だ

「今宇髄が厠を借りている。すまないが、こちらへ来てくれるか?」

あの様子のおかしかった宇髄は厠へ行った
いや…頭を冷やしているだけかもしれない
だが、この状況をこれ幸いと思ってしまっている自分がいる

こちらへと言った俺の言葉通り、薫さんは俺の横に立った
隣へ座るよう促すと静かに腰をかける
洋装の裾がふわりと広がり、可憐な雰囲気を際立たせる
しかしよほど焦っていたのだろうか、後のボタンが締められていない

「後ろのボタンが開いている。閉めてもいいだろうか?」

薫さんはハッとした顔をこちらに向けると、頬を紅潮させ俯き
小さな声で言った

「お願い…します」

恥じる薫さんは可愛らしい
また一つ、違う一面を見たようだ

三つ編みの成された髪は艶があり、女性特有のしなやかさがある
この結った髪も、洋装も唇の紅も
どれも逢瀬の為だと思うと愛おしくなった

「髪を上げてくれ」

「あっ…はい」

薫さんが結った髪を上げると、白くて細い首が露わになった
男の筋ばった太い首と違い、華奢で触れただけで折れてしまいそうなほど頼りない
指先に熱が集まり、心なしか震えてしまう
薄い肌はすぐに傷ついてしまいそうで、細心の注意を払いながらボタンを閉めていく

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