第1章 歳上のズルさと、歳下の特権【伏黒 恵】
「で、聞いたんだよ。おめーは呪詛師かって。そしたらなんて返ってきたと思う??」
「はいそうです」
「そう!だからカチンってきちゃってぶん殴ったの。そして一発KO大勝利」
「はあ」
「聞いてる?」
「聞かされてます」
「あっそ、ならいいや」
「はあ」
真希さんとの訓練はいいんですか?
恵がにそう声をかけたのが発端だった。
「だって真希ほちゃめちゃキビシ-もん」の一言で恵の問いを片付け、給湯室に寄って二人分のお茶を淹れ飲んで駄弁っている。
普段なら稽古をしている時間でこういった行為は「サボり」になる。
それは不真面目なだって解っていた。
「真希ちゃん戦ってる時可愛いけど、普段めちゃ怖いじゃん」
恵にとって、二酸化炭素を吐くように意味の分からない発言と失言(ついでにイタズラ)をよくするのが、東京校の高専生、2年であった。
そして、彼女は何故か心惹かれる存在であった。
「それ本人に言ったら殺されますよ」
「笑顔で半殺しだったかな。げんこつの方が痛い」
「されてるじゃないですか」
「しかも振ったコーラ渡した直後だったから殺されかけて」
「それ100パー先輩が悪いですよ」
「そっかなー」
ズズズ…とそば茶を飲み干す。
以前野薔薇をスカウトしようと画策した人に(恐らく先輩が悪ノリをし始めた結果)押し付けられた物だという。(本人談)
「うま。これ」
「え、美味しいですか?」
「お気に召さない?」
「なんか…渋いっていうか」
「言われてみれば確かに」
こういうポワポワした空間にいると、脳みそが溶けるのではと疑ってしまう。
実際会話の内容が脳死レベルだとしても、悪い事ではないと少なからず思う。
それは、きっと居心地が良いからだ。
2人でいる空間が。
「っしゃー今度真希に会ったらフルボッコにしてやる」
「なんで急に」
「恵とお茶したからかな」
恵の分の椀をちゃっかり一緒に洗い、伸びを一つする先輩。
一つ一つの動作に見とれながら、恵も寄りかかっていた体勢を戻す。
「打倒!怖真希チャン!!」
「先輩、うしろ…」
時すでに遅し。
は、顔面怖真希から絞め技を受けていた。