第2章 chapter1 ~敵~
そういえばティアナで空を飛ぶのはいつぶりだっただろう…。
暫く感じる事の無かった風の感覚に、ふとそう思った。
[サクラ様、もうすぐ目的地上空ですわ。降下いたします。]
雲のように浮ついていた気持ちが、ティアナの言葉で一気に引き締まる。
地面に近づくに連れてどんどん緊張感は増していった。
緩やかに地面に着地し周りを見回すと、もうすぐ演説らしい物が始まるらしく、人だかりができている。
「聞いてみよっか」とティアナを撫でつつ人だかりに近づくと、マントを着た緑の髪の人が小高い所にたって話し始めた。
「皆さん、私達人間はポケモン達と共に生きてきました。しかしそれは本当にポケモンにとって幸せなのでしょうか?私達はポケモンをボールに閉じ込め、こき使っているのではないでしょうか___。」
それからも話は続くが、頭がその内容を拒絶しているかのように理解できない。
[…サクラ様…?]
ティアナの声に、我に返る。
私は思わず隣にいたティアナの手を握っていたのだ。
「ごめん、ティアナ…。あなた達は…私と一緒にいたくないと思う…?」
不安になって、聞いてみた。
もし嫌だと言われたらどうしよう…。
その事ばかりが私の脳裏を支配する。
しかし…。
[そんな事ありませんわ。はっきりと、断言いたします。私達はいつでもサクラ様の元におり、力になりたいと切に願っています。
あんな輩の言う事など気にされる必要はございませんことよ?]
ティアナの言葉と優しげな微笑みは、私の心に巣くう不安を一切取り払ってくれた。
「あり、がとう…。本当に、ありがとう…。」
ティアナをふんわりと抱き締めてそう言うと、私の目からは幾筋もの温かい涙が頬を伝っていった。
声を抑えて泣くもののティアナには分かったようで、私の背中を優しく摩り、[大丈夫ですわよ。]とずっと宥めてくれた。