第1章 1
休憩時間、楽しそうに談笑する共演者たちから離れて、人気のないロビーにある自販機で温かいお茶を購入し、そばにあるベンチにぼんやりと座っていた。
いつもより集中していて疲れたのか、頭がボォっとして視覚までがぼやけてきたところ、さっと影が翳り、誰かがわたしの前に立ちふさがった。
・・・・?
のろのろと顔を上げるよりも早く、その誰かの手がわたしの額に触れた。
「・・・熱があるわけじゃないか」
そう呟いてわたしの目線まで屈みこんで、わたしを覗き込んだのは、わたしの長年の片思いの相手、事務所の先輩で、この作品の共演者の下野紘さんだった。
「しもの・・・さん?」
「、お前、具合悪だろ」
下野さんが眉を寄せて心配そうに言いながら、わたしの隣に座り、両手でわたしの首を包み込むように触れて脈を図る。
「あ、いえ、あの、熱はないですし、大丈夫です」
「大丈夫じゃねぇから言ってんだろ。熱はないかもしれないけど、脈も早いし、顔色悪いし、倒れそうじゃん」
「・・・PCR検査は陰性でした」
「そーゆー問題じゃないだろ。コロナじゃなくたって具合悪いときは無理したらダメだろって」
その至極まっとうな言い分に、思わず唇を噛んで俯いた。
「いや、仕事休んでみんなに迷惑かけたくないって言うお前の気持ちはわかるけどな。別に説教してるわけじゃないから。」
先輩に叱られ、しょぼんとしたわたしを気遣ってか、下野さんが少し慌てたように言いながらわたしを覗き込んだ。