第3章 副社長
「君が話さないなら僕が喋ろう!今は気分が良いんだ!期間限定出血大サービス。今ならどんな質問にも、答えてあげちゃおうかな?訊いちゃってもいいよ?好きな人はいるの?とか、恋人はいるの?とか!あ、ちなみに僕って平気で嘘吐ける人間なんだけどね」
こちらが感心するくらい、くるくるとよく回る舌だ。そんな彼の好意に、ここは甘えてみることにした。
『では、1つだけ』
赤信号。緩やかにブレーキを踏みながら、私は昨日からずっと引っかかっていた内容をぶつける。
『どうして私は、採用されたんですか』
「んー、実につまらない質問だねぇ。それを知って何かこの先に影響するの?でも答えてあげる。僕はなんて優しい男なんだ!
採用理由は、こうだ。
君が、僕と同じだったから」
『同じ…』
「そう。僕もね、アイドルが、大嫌いなんだよ。
奴らはステージ上で生きてるからね。絶対に触れることは叶わない。エゴと残酷さと自己満足を大鍋でグラグラ煮詰めて、その上澄みをすくって固めたような存在だ」
『どんな、味がするのでしょうね』
「さぁね。それを食べてみたいなら、まずはステージから引きずり下ろしてやらないと」
『なるほど』
平気で嘘を吐く。さきほどこの男はそう言った。それは紛れもない事実だろう。顔と、声と雰囲気で分かる。
しかし。この言葉には、一切の嘘偽りはない。それだけは、わざわざ後部座席を振り返り、顔を確認しなくても伝わって来たのだった。