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キラキラ星

第3章 副社長




「あれ?君いたの」


口ずさんでいた鼻歌をぴたりと止めて、了は私に声を掛けた。頭を下げると、彼はまた興味無さげに歩き出す。
出勤初日に放り出し、2時間ばかり謎の遊び待ちをさせた相手への第一声が、いたの?と来た。
でも、何故だろう。全くもって腹が立たないのは。

どうやらここまではタクシーを使ったらしい。しかし帰りは私の運転で会社へと戻る。
後部座席のドアを開けると、了は慣れた具合で乗り込んだ。

バックミラー越しの彼は、ニコニコとご満悦だった。手の中で戦利品のヘラとハケを弄んでいる。よほど発掘ごっこが楽しかったのだろう。
そして気が乗ったのか、意気揚々と私に話を振ってくる。


「暇だし、ちょうどいいや。自己紹介でもしようか?僕の名前は、月雲了だ!いくつに見える?いつも実年齢よりも少し上を言われる事が多いから、毎回ちょっとショックなんだよね。好きな食べ物は肉かな?でも魚も好きだし野菜も好きだから迷っちゃうなぁ。趣味は色々。沢山あった方が友達もいっぱい出来るし、退屈しなくて良いだろう?」

『……』


結局、今の自己紹介で明らかになったのは名前だけでは?


『です。よろしくお願いします』

「君ってさー、もしかして無口?」

『お喋りな方が、秘書向きですか』

「いや、今のままでいいよ。喋って欲しい時に黙られたらイラっとするけど、黙って欲しい時に喋られたら、もっとイラっとするだろう?」


べつに私は、元から無口だった訳ではない。しかし、色んな事が起因して、やはり私は変わってしまったのだろう。
使い物にならなくなった喉を使うのには嫌気が差すし、必要以上に誰かと懇意になろうとも思えなくなっていたし。
この調子で、音楽もアイドルも…心から嫌いになってしまえたら、どれほど楽に生きられるだろうか。

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