第6章 戯れ
— 戯れ —
私のデスクは、副社長室に完備されている。そして副社長室には、私と了以外のデスクはない。つまり私達は多くの時間を、この密室で、さらには2人きりで過ごしている事になる。
この状況下から、私達の関係を面白おかしなものだと勘繰る人間は多い。何を隠そう、社長という立場の実兄ですらその1人だ。
その兄曰く、私が面接に来たあの日。了自らが面接官を買って出たそうだ。さらには、自分の秘書に就けると決めたのも了本人らしい。てっきり私は、音楽に携わる仕事をしていくものだとばかり思っていたのに。
彼は、私を自分の隣に留め置いた。
ワンマンを絵に描いたようような男が、どうして。彼を突き動かすものは一体何か。それは私にも分からない。気にならなかったわけではないが、怖くて聞けなかった。
どうして、私を傍に置くのですか。
こんな簡単な短文が、彼の隣に来て1年、私は口に出来ずにいたのだ。
私達の関係は、謎だ。副社長と秘書。そう言い切れてしまうほどには、浅い関係ではない。もう少し、違った絆で繋がっている。と思っているのは、私だけの可能性は大いにある。
とにかく、周りが期待しているような、ピンク色な関係でない事だけは確かだった。
「」
『はい』
「ブロッコリーと、カリフラワーで、ブロッカリー」
『美味しそうです』
彼は今日も、おままごとセットに夢中だ。仕事を放り出し、様々な食材の、半分と半分をくっ付けている。この世にない、新種の野菜を生み出すのが堪らなく楽しいらしい。
「あっ、これは知ってる?君には初めて見せるんだけどね!ナスと、ダイコンで、ナスコン!ナスのとろりとした食感と、ダイコンのホクホク食感が合わされば、どんな美味しさが生まれると思う!?」
『美味しそうです』
私は了の方には目を向けず、頭の中で未知なる野菜を想像した。