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キラキラ星

第5章 生欲求




分かっていた。甘やかな言葉など、この男が吐くわけがないと。むしろ、その突き放すような物言いに安堵すら覚える。
やっと彼の目を見る決心が付いて、顔を上げる。すると、思ったよりも何倍も近くに、彼の顔があった。そして、その視線は鋭く尖り。私の瞳を捉えて決して逃さない。


「理解は出来ないし、するつもりもない。でも、二度と僕の前で死に急ぐような行動は取るな。これは絶対だ。分かったな。もしもお前が、僕の前で誰かに殺されるような事があってみろ。そしたら僕はその後で、お前を10回は殺してやる。

これは、命令だ」


狐に睨まれたネズミの気分だ。いやでも、やっぱりそれは少し違うか。だって、この狐になら10回食べられてもいいや。なんて思っているネズミなんて、おそらく、いないだろうから。

息が出来なくて、体が動かなくて、脳が揺れて、胸が苦しい。嬉しいから?怖いから?もう、自分の感情がよく分からない。
ただ、熱くなった顔をこくりと下に俯向けた。


「あとは、そうだねぇ。もしも仮に君が、もう生きるのをやめてしまいたい。そう思ったその時は、この僕を思い出せばいい。
言い換えると、こうだ。
お前は、僕の為に生き続ける。僕を、お前の生きる理由にすればいい」

『そ、れは…。それも、命令、ですか?』

「ううん。これは、ただの提案だ。
僕の側にいて、僕の役に立って、僕の為に生きる。そうすればきっと、これから凄く楽しい余興を沢山見せてあげる。面白くて可笑しくて、君もきっと腹がよじれるほど笑うこと請け合いだ!」


もしも、この場面が100回巡って来たとする。きっと、毎回が毎回この結果に行き着くとは思えない。何故なら、了は気紛れな男だから。
気分や機嫌で、考え方も言う事もコロコロと変わるのだ。今回はたまたま、この言葉をくれただけに過ぎない。

でも、例えそうだったとしても。
彼は、私の生きる理由となった。

そして。

彼が、私の生きる目的となったように。
私が、彼の “ 抑止力 ” となりたい。

いつしか、そう願うようになっていった。

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