第6章 戯れ
「お次はこれだ。トリニクと、ニンジンで、トリジン!肉と野菜が同時に摂取出来るなんて、夢のような食材だろう!?」
『美味しそうです』
確かに栄養価には期待出来そうではあるが、そのネーミング。もう少しどうにかならないのだろうか。鳥人。頭が鳥で、下半身が人間の生物を想像してしまう。
「じゃあとっておきだ!特別に君には見せてあげよう。サカナと、ニクを合わせたスーパーフード!その名も魚肉だ!」
『美味しそうです』
それはもう現実にある。
とまぁ、こんな具合で。私達の間に色艶めいたものは一切ない。私はカチャカチャとパソコンに向かっているし、了は玩具にぞっこんだ。
「うーん、つれないねぇ。僕がどれほど素晴らしい野菜達を開発しても、君はこちらに目もくれない」
『美味しそうです』
「……ここまで邪険にされたら、どうあってもお前の視線が欲しくなっちゃうじゃないか。さてさて、どんな手段が有効なんだろうねえ」
私達の心が通ったり、まして体に触れ合ったりするなんて。そんな日は永遠に来ないのだ。
今日この日この瞬間までは、そう思っていた。
「」
『!!……え、』
聞き間違い。などではない。彼は今、確かに私の名を呼んだ。
了の口がと発したのは、この1年の間にたったの2回。だから衝撃で、あまりに驚いて。私はパソコンなんて放り出して、彼の方へ視線をやった。
「おいで」
了は、私に向かって左手を差し出していた。瞬間、本能的に悟った。今この手を取ってしまえば、もう、後には引けなくなること。
ソファに背を預け足を組み、悠々と手を差し伸べるその姿は。ひどく妖艶で、情欲的だった。褒め言葉には聞こえないかもしれないが、まるで悪魔の類だ。
気が付けば、私は悪魔の手を取らんとしていた。