第11章 組織
『昭和』などと開かれた段ボールが棚に積み重なっている資料室。
あまりの古さに段ボールの中は特に整理もされておらず、詰め込まれたままだ。
降谷さんはそんな棚と棚の間で縮こまるように座り込んでいた私の前に立ち、私を見下ろした。
私は動揺を見せないよう表情に気をつけながら、ノートパソコンをそっと閉じ、膝にあった資料を横に伏せておくと、立ち上がった。
「今調べている事件は捜査中止だ。」
「…。」
「夏目なら僕が言ってることがわかるな?」
奥歯をぐっと噛み締め、私は降谷さんを見上げた。
「…私が今捜査してる事件は風見さんに頼まれた悪徳宗教団体の案件ですよ?ほら。」
「夏目。」
真剣な声に私はビクッと肩を揺らした。
カモフラージュ用に用意した風見さんの資料を見ようともしない降谷さんはじっと私を見下ろしている。
「手をひけ。夏目。」
「…。」
悔しくて悔しくて私は降谷さんのつま先を見ることしか出来なかった。
ーー…まただ。
「上からの…命令ですか?」
「そうだ。」
「しかしっ!」
「小井崎刑事…。」
「…っ!?」
まさか降谷さんの口から彼の名前が出るとは思わなくて、私は一歩後ろに下がった。
「夏目の教育係だったか。」
「…はい。西署の刑事部に配属になった時の私の先輩でした。この事件を調べてる最中に自殺しました。」
「ならわかるだろう。どれくらい危険な事件か。」
「だから調べるな、捜査するな、手をひけ。上の命令だから。ですか?」
「…そうだ。」
ーーー…降谷さんもそうなんだ。みんなと同じ。上の命令には絶対。それが警察という組織なのはわかってる。
私は足元の荷物をカバンにぜんぶ詰め込み、資料をかき集めるとそれを抱き抱えた。
「降谷さんなら……。」
わかってくれると思った?
私は真剣な目で見下ろしてくる降谷さんを睨みつけた。
「私にとっての上司は今もこれからも小井崎さんだけです。」
そう言い捨てると資料室を逃げるように後にした。