第9章 笑顔の意味
「悪いな、忙しいのに。」
「えっ!?…いえ、あのくらいならさほど時間はかかりませんから。」
え?安室さん?ん?降谷さん?
でも、1人お客さんが私以外にいるのに降谷さんになるなんてありえるだろうか。
ソファに座ってアイスコーヒーを飲んでいるお客さん。
もちろんカウンターの中の安室さんからも見えているだろう。
「もうすぐ閉店時間になるから締めてくるよ。梓さん帰ってきて写真を送信してもらったら帰り送ろう。」
…送ろう?
「いえ。大丈夫です。安室さんにそこまでしてもらうわけには…。」
安室さんはふっと笑うと本当にお店を片付け始めた。
全然わかんない。
今安室さんなの?降谷さんなの?なんで今笑ったの?
箒を持って外掃除を始めた安室さんをチラチラと観ながら私は急いで残りのガトーショコラを平らげた。
「おねぇさん安室さんの恋人?」
ぶっ!!!
流し込むようにして飲んだカフェオレを噴き出すところだった。
必死でそうしないようにしたため、鼻水と涙が出てきてしまった。
「ごほっ…ん?」
カウンターに座っていた私はを見上げるようにして立っていたのは、さっきソファに座っていた残り1人のお客さん…子供だ。
男の子は眼鏡をかけ、首を傾げながら私を見つめている。
年は5.6歳だろうか。
幼稚園の年長か…あるいは小学1年くらいか。
「1人?どなたか大人の方は?」
「僕1人だよ。鍵忘れちゃってここで待たせてもらってるんだ。」
「1人で偉いね。」
わたしが頭を撫でようと手を出すとそれをぺしっと払われてしまった。
…ませたガキだな。
「そんなことより、おねぇさんは何者なの?」
「…何者って。」
何者なのかだなんて、聞かれたのは人生初だ。
ここは、戦隊モノの何かになりきったほうがいいのだろうか。
「安室さんの恋人?」
「まさか。今日初めて自己紹介しあったんだよ。」
ほらぁ、安室さんが不用意に子供の前だからって『送ろう』なんて言うから変な子どもに絡まれちゃったじゃないか。