第9章 笑顔の意味
二人の後ろを歩く。
買い物袋を持ってにこやかに会話をしながら歩く二人はなんとなく恋人同士のようで、会話に入る事ができなかった。
ーーあんな笑顔で話すんだなぁ。
私の時はあんなに業務的なのに。
お店に案内されると、マスターが出迎えてくれて、それはそれは手厚く対応してくれた。
安室さんの入れた美味しいカフェオレにケーキにと、頼んでもないのにさっと出してくれて…
「あ、あの…」
「そういえば、お名前伺ってませんでしたね?僕は安室透と言います。」
「私は榎本梓です。」
「私は、七瀬めぐみと言います。」
今更自己紹介をして、椅子に座ったまま頭をぺこりと下げた。
店内にはお客さんが三組ほどいてみんな一人で座っていた。
その中で店員にケーキを出されもてなされるのは何となくいたたまれなかった。
「カフェオレ。温かいうちにどうぞ。」
「あ、はい。」
安室さんに言われると、どうも命令なのではないかと思って素直に言うことを聞いてしまう。
カップを手に取り、口に含んだ。
「おいし…」
相変わらずとっても美味しい。
ほっこりと味わっていると、くすくすと笑ってる安室さんに気付いて私は身体に力が入った。
しまった。のんびり飲んでないで早く帰れって意味かもしれない。
カウンターの端に座り、私は出してもらったガトーショコラを大きめな一口に切って口に放り込んだ。
「めぐみさん。これなんですけど…。」
「…ん?」
ぺらっと手書きの一枚の紙を渡された。
「今度うちの商店街でフォトコンテストをすることになって、うちのマスターがポスターを作ることになったんです。」
「はい。」
「でも…見てください。」
手元の紙を見た。
色鉛筆とマーカーで書かれた『フォトコンテスト』の文字と、何か人の様なものが2人立ってる絵。
「マスターのセンスと技術が壊滅的で…。」
「あ、味があっていいと思いますけどね。」
「こんなんじゃ、参加者なんて来るわけがないです!それで…プロのめぐみさんにお願いしたいなって。」
「そんなプロだなんて。」
壊滅的だと言われたマスターは照れたように頭に手をやり笑った。