第8章 ただの勘違い
「…おい。」
「…!…っ!?」
プチパニックだ。
暴れて大声出さなかっただけ褒めてほしいくらいだ。
「不自然すぎる。」
「…っ。」
「この角度はキスしてるように見えるはずだ。なのにお前が突っ立ってるだけだと変だろう。」
「あ…え……。」
「もう少し僕とキスしてるように装え。」
…キスしてるように。
「公安だろう。」
「…っ!」
「いまだけ僕の恋人だ。」
そうだ。
そのくらいやって当たり前だ。
あまりに安室さんが苦手すぎて意識しすぎていた。
私は安室さんの恋人。私は安室さんの恋人。私は安室さんの恋人。
私は安室さんの腰に手を回し、きゅっとグレーのスーツを握りしめた。
私は安室さんが好き。私は安室さんが好き。私は安室さんが好き。
私はーー
「……好き。」
「…っ!」
顔を上げ、安室さんとキスをしているかのように見える角度で彼を見上げていると、頭の後ろに安室さんの手が当てられ、ぐっと下に押し下げられた。
「…いっ。」
痛い!
首がグギッっていった!
私の頭の後ろには未だ安室さんの手があり、無理矢理下を見させられてる。
「…。」
「あ、安室さんっ?」
「うるさい。」
一歩さらに安室さんが近づきてきて、蝶ネクタイの辺りがおでこに当たってうまく動けない。
壁と安室さんの胸板に挟まれてる。
「…あ、あの…。」
「…今、僕を…こっちを見るな。」
「…?」
むにっと胸板を押しつけられてどうしたらいいのかわからない。
なんで、見ちゃダメなんだろう…?
私は指先で掴んでいた安室さんのジャケットをきゅっと掴み直した。
「…。」
「…。」
男性達の足音が遠ざかっていく音だけが廊下に響き渡っていた。