第8章 ただの勘違い
私が着てきた上着を簡単に畳むと降谷さんは後ろの座席にぽいっと置き、車を発進させた。
「この先、車を降りたら安室透だ。」
「はい。」
「調査対象の男性は前から誘っていた女性と会場を抜けると、部屋へと連れ込む事が多い。」
「はい。」
「その時の会話と現場の写真をおさめるから、僕の手元を隠すよう影になってくれ。」
「わかりました。」
車を走らせながら降谷さんは淡々と説明をしていった。
「まぁ、簡単な仕事だ。いけるな?」
「はい。…少し緊張はしますが、大丈夫です。」
ふーーっとゆっくり息を吐いた。
いくらただの浮気調査だといっても、大きなパーティーへの潜入だ。トラブルなくスムーズに進みますように。
…“安室透”に嫌な顔するなよ、私。
「ついた。……では、いきましょうかめぐみさん。」
「はい、安室さん。」
私は安室さんの右肘の辺りにそっと手を添え、彼が進む方へ一緒に歩いた。
蝶ネクタイのグレーのスーツの安室さん。
いつもの急に雰囲気が変わって私もどんな態度で接すればいいのかドキドキしてしまうが、とりあえず黙って彼についていった。
「何か飲みましょうか。」
「…。」
にこっと笑って見下ろしてくる安室さんについ一瞬間が開いてしまったが、私も必死で笑い返した。
会場に付いてウロウロと歩く安室さんは私にソフトドリンクの入ったグラスを渡してくれた。
…飲まないほうがいいよね?
と、口をつけるふりをしていたが、安室さんは普通に飲んでいるようだったので、それを確認してからわたしもひと口それを飲んだ。
「…見つけました。まだパーティーは始まったばかりだと言うのにもう女性に接触してるようです。」
「もう?」
「近づいて会話を録音します。」
「はい。」
終始耳元で話されて、少しドキドキしたが、きっと初めての潜入捜査だからだと自分に言い聞かせた。