第8章 ただの勘違い
目立つな、と言われても普通に百貨店で買ったさほど高くないロングドレスだ。
急に走ることになってもいいようにフワッとした柔らかい生地だし、どこにでもあるデザインのはず。
むしろ…金髪でスッと背が高く、その無駄にイケメンの顔面のほうが目立つに決まってる。
「上着はないのか。」
「…セットではなかったので。目立ちますか?」
特に胸を強調してるわけでもない。
肩紐は紐タイプで細くはあるが。
肩紐をくいっと引っ張っていると、肩にグレーのスーツをかけられた。
「…?」
「行きに店による。」
「え?露出高すぎましたか?」
私が心配して聞くと降谷さんはぐっと眉を寄せ、睨んできた。
「寒そうなだけだ。行くぞ。」
「は、はいっ!」
私は歩くのが早い降谷さんをヒールで必死に追いかけた。
乗り込んだのは降谷さんの車だった。
「目立つからマイクやイヤホンはつけたりしない。僕から離れないように。」
「はい。」
「急な依頼だから女性用のアクセサリーにマイクをつけたり間に合わなかった。」
「大丈夫です。」
パーティー用の小さなバッグを膝に置き、肩にかかった降谷さんの上着がずれないよう手で抑えた。
上司の上着を着てるからドキドキしてるわけじゃない。これは、初めての潜入捜査(ただの浮気調査)だから緊張でドキドキしてるだけだ。勘違いするな、私。
どこかのコインパーキングに停めると、降谷さんは“待ってろ”と一言だけ言って出て行った。
大人しく助手席に座って待っていた。
車の中をぐるっと見ると、無駄なものはなく、すごく綺麗にされていて降谷さんらしいなって思った。
降谷さんの趣味なのだろうか、こんな立派な車ーー…。目立ちそうな気もするが、運転してる姿を思い出しながら、まぁ似合うんじゃない?などと、上から目線でそんなことを考えた。
なんだかんだでこうやって上着を貸してくれたりもするし。
(別に困ってなかったけど。)
「…上着おっきい。」
肩にかけてただけだったが、そっと袖を通してみた。
指先まで隠れるほどの大きさだった。