第8章 ただの勘違い
私は後ろに立つ降谷さんをゆっくり振り返った。
そして、誤魔化すようににこっと微笑みかけた。
「あ、降谷さんお疲れ様です。先日頼まれた資料なんですが、今日の夕方ごろにできそうです。パソコンに送ればいいですか?」
「あぁ。頼む。そして話を逸らすな。」
「えぇ?」
ははっと笑いながら私は再びパソコンの方に向き、必死で先程の発言は無かったことにしようとした。
が、そうもいかないようで、降谷さんは一歩私に近づいた。
ビクビクしながら真後ろに立つ降谷さんに全神経を集中させた。
「僕がうるさくて、そのせいで恋人がいないと?」
「あぁ、そのことですか?降谷さんのことじゃないですよー。高橋です高橋。」
後ろを見ることなく適当にタイピングしながら、私はなるべく明るい声で降谷さんのことではないと、主張し続けた。
すっと、私の机のパソコンの右側に褐色の大きな手のひらが乗せられ、ビクッとして私はその手を凝視した。
「なら。」
「ひっ。」
左側の耳元で上司の声が急にして、私はビクッとしてしまった。
「君が僕の恋人になってみるか?」
「〜〜〜〜っ!!
「…めぐみ。」
「…ひゃっ…。」
「……。」
私は左耳を慌てて抑えて思いっきり立ち上がった。
「その程度でそんな様子だと、君もたかが知れてるな。」
「…はっ!?」
なんだと!?私は降谷さんと違ってついこの前まで恋人いたし!
「僕は出来ないんじゃない、作らないだけだ。恋人くらいいくらでもすぐできるさ。」
「…じゃ、じゃあ。」
「なんだ、僕の恋人になりたいのか?」
「嫌です。」
「お前な…。」
「いや、公安なら両立してみせろって降谷さんがおっしゃってたので。」
「…ほー?両立出来ないから恋人がいないと?」
「いえ、なんでもありません。」
そうだ。と言うとめんどくさいことになりそうなので、それ以上は言わなかったけれど、降谷さんはそう捉えたようでただじっと私を見下ろした。