第6章 素直に
くぅ、悔しい。
私が上司にトキメキそうになってしまった。
ときめきそうになっただけで、断じてときめいてなんてない。
あんなイケメンに言われたら誰でもどきっとくらいするに決まってる。
一瞬だけ!
安室さんの後ろを歩きながら、日頃の降谷さんを思い出して、すぅーーっと気持ちがひいていった。
ほら。一瞬だけだった。
ドキドキしていた心臓も落ち着きを取り戻し、私は元いた席に座って唐揚げを口に放り込んだ。
安室さんは相変わらず私の横でお酒を飲んでいる。
私はさっきの安室さんを頭から振り払うようにぐいっとお酒を飲み干した。
「…大丈夫ですか?」
「何がですか?」
「結構飲んでますが。」
「酔って失敗したことは一度もないです。大丈夫っ。」
安室さんは一瞬眉を寄せたが、それ以上何も言わなかった。
失敗したことがないのは本当だ。
公安の私が酔って記憶を無くしたり、フラフラしたりなんてことは絶対ない。
もちろん気分良くなることはあるが。
その程度だ。
みんなでワイワイと仕事のことやら今までの恋愛のこととか、合コンでありがちな会話をしながらお料理をたべて、お酒を飲んで。
しばらくして私の前に座っていた、たかしくんがトイレか何かに立ち上がり、席から離れたと同時に、腰の後ろあたりに何かがかすった。
「…!?」
「……。」
安室さんの左手だ。
ピッタリ近づいて私の後ろに手をついてニコニコ笑っている。
すごくリラックスしているのか、無自覚なのか、とにかく近い。
吐息が聞こえてきそうなくらい。
「あ…安室さん。」
私は近くにある安室さんの左脇腹あたりをみんなから見えないようそっと押した。
少し距離を取りたい。