第6章 素直に
ただ固まって立っているだけだと変だと思って私は携帯の妨げにならないように手を上司の二の腕にそっと沿わせた。
ピクリと降谷さんは反応したが、そのまま男にこっそりと携帯のレンズを向け続けた。
「…よし。撮れた。」
ほっとして私は降谷さんからは離れようとしたが、降谷さんは脚で私の進行を妨げた。
「…え、あの……!」
「撮れはしたが男はまだいる。ーー…もう少し。」
「…わかりました。」
そうだよね。急に逃げるようにその場から離れたら怪しまれるよね。
私は不自然の無いよう、指先を降谷さんの手首あたりにそっと置いた。
恋人みたいに振る舞わないと。
ちらっと上司を見上げると男を見ていた降谷さんがこちらを見下ろしてきた。
「…あざといな。」
「…へ?」
「いや。もう、行ったようだ。僕たちも行くぞ。」
「はいっ。」
私はふぅっと息をつき、降谷さんからは離れた。
ーー…緊張した。いい匂いだったなんて思ったら変態だろうか。
「男とは反対の方に行く、こっちだ。」
「はい。」
私は降谷さんの左横をついて歩いた。
しばらく歩くと白い車が停められたコインパーキングに着いた。
ぴっと音が鳴り,車のロックが開けられた。
…え、この車まさか降谷さんの?
ガチャっと助手席が開けられた。
「座れ。」
「え?…あのでも私は。」
「いいから。」
髙橋主催の合コンにこれから行く予定だったのに。
完璧に遅刻だが、今からでも遅くは無い。
無言で私を見つめてくるので私は恐る恐る助手席に座ると、降谷さんが車の外で膝をついた。
「…!?」
「ほら、脚。痛いんだろう?」
「…えっ!?いや大丈夫です!」
私の足元で跪く上司に私は焦った。