第37章 本音
旅館の手伝いということで、業者が洗ってくれたシーツや座布団のカバーを受け取り、運びしまっていくというような本当に裏方の仕事をしていた。
黙々とやる仕事は色々と考えてしまう。
ポケットのスマホに手を伸ばした。
「今日も誰からも連絡なしかー…。」
私の引き継ぎが完璧だったのかもしれないけれど、風見さんたち班の人からも連絡はないし、降谷さんからだって何もいまだに言ってこない。
辞めた私から降谷さんに連絡もしづらくてただ携帯を見つめる日々が続いた。
「めぐみ。」
後ろから話しかけられて、私は慌ててスマホをポケットにしまった。
振り向くと母が少し気まずそうに立っていた。
「なーに?」
「貴方が大学卒業する前警察をやるって言った時の条件…覚えてる?」
「あー…うん。でも、ずっと断ってたよね?」
実家の手伝いをせず、警察をやるって言った時、初めは反対された。その時父から条件を出されたのだ。
母は私の人生だから好きにしろって背中を押してくれたが、父はやっぱりこの老舗旅館を共に支えて欲しかったようだった。
『ここの仕事をしないなら、この旅館を支える婿を迎えること。』
いわゆる許嫁をあてがわれたのだ。
私の代わりに旅館の後を継ぐ男性と結婚しろとか、そんな無茶な条件はもちろん断ったし、無視して警察になったのだけれど。
別にうちの家系から後継者を出さなくたって、やりたい人が旅館を継げばいいじゃないか。
許嫁とかってに言われた彼…“如月”さんだってそんなに知らない私と結婚だなんて嫌に決まってる。
“如月奏”ーー…。(きさらぎそう)
近くの小さな建設会社で働く次男坊で、小さい頃はよく遊んでいたし、学生時代はうちでバイトをしていた。
よく仕事ができると父も褒めていたから、彼を後継ぎにするために私と結婚させたいのかもしれない。
「うん、わかってるわ。私もこんな結婚は時代遅れだってお父さんに言ってたのよ。」
母はそう言った。
「うん。」
「最近はそれにも納得してくれて、別に結婚しなくても奏くんをこのまま旅館の手伝いしてもらおうかって。」
「よかったじゃない。」
「うん……でも、そうも行かなくなってきたの。」
母は沈み切った様子で小さく呟いた。