第37章 本音
ベッドに腰掛けてなんだか嬉しそうな弟を見つめた。
日サロだろう、少し色黒になった肌に金髪、以前は黒髪に少しパーマをかけてたのに全然雰囲気が違う。
「髪の毛傷んでパサパサじゃない。」
降谷さんはサラサラだもん。
「姉さんの次の好みじゃん。」
ふっと髪の毛をかきあげて爽やかに笑う弟の笑顔は、仕事をしてる降谷さんとはまったくの正反対で、思わず笑ってしまった。
「似ても似つかないよ。」
私がじんぺーくんと別れて、実家に帰った時も弟はそうだった。
もしかして私を笑わそうとしてやっているのだろうか。
…いや、考えすぎかな。
「ありがと。」
「俺の方がいい男だろ?」
ただの対抗心だけでなってるだけなのかもしれないけれど、ちょっと元気出た。
動きやすい格好に着替えて髪の毛をまとめた。
旅館のお手伝いって言っても裏方だろう。
「姉さんはなんで警察辞めたんだよ。」
「…色々あるの。」
「旅館継ぐの?」
明治から続くこの旅館。
代々受け継いできた大切な旅館。
無くしたくない気持ちはあるけれどーー…。
「…うーん。」
私はどうしたいのか弟に何も言えなかった。
『君には警察を辞めてもらう。』
頭に響くあの人の声。
「どうしたらよかったんだろうーなぁ…。」
私に選択肢なんて無かったんだ。
「そう言えばむっちゃん大学は?」
「辞めた。」
「はぁ!?」
「それで、前に親父と喧嘩して姉さんの家に転がり込んだんだよ。」
「勝手にしたんなら怒るでしょ。」
「別に俺の好きにしたっていいだろ。」
「好きにしていいけど、ちゃんと話さなきゃ。」
一応お金は親に出してもらってるんだから。
「姉さんだって話さないじゃん。」
「警察には言えないことがたくさんあるの。」
武蔵は通っていた大学を辞め、私は警察を辞めた。
「姉さんは辞めたかったの?」
「……。」
「それともここを継ぐの?」
「……色々考えてるの、ちょっとほっといて。」
…辞めたくなんてなかった。
あの日の声が頭の中で繰り返される。
『辞めてもらわないといけないんだ。わかってくれるね?夏目さん。』