第36章 上司 降谷零の力
めぐみが何故、僕に何も言わず辞めたのか。
最後に会ったのは道場だったが、次の週には会う約束をしたし、赤井や梓さんがうらやましいというくらいには僕も想われていたはずだ。
不審な点はなかった。
「他の捜査員たちも何も聞いてないのか。」
「…わかりません。呼びますか?」
「頼む。」
何かあるはずだ。
警察官を辞めなければならなかった、何かが。
「…何かに巻き込まれてなければいいが。」
「警察は初めから30歳までには辞めると決めていたようでした。」
「…?」
「“そろそろアラサーだし、やめ時だ”と、言ってました。」
そんなこと、一度も僕には言っていない。
初めから辞めるつもりだったのか。
確かに女性警察官は男性警察官に比べて結婚出産などの理由から離職率は高い。体力も必要となる仕事だから、女性にはキツイ仕事だろう。
ーー…ずっと悩んでたのか?
「…降谷さん。」
思った以上に考え込んでいたようで、風見が心配そうにし始めた。
「なんだ。」
「帰国したばかりで時差ボケもあるんではありませんか?顔色が優れないです。一度休んでください。」
確かに時差ボケはあるかもしれない。
「…この資料に目を通したら、一度帰宅する。」
「はい。そうしてください。公安部に誰か夏目のことを知ってるものがいるか、聞いてみます。」
「…いや。ここだけに話を止めておいてくれ。」
「何故です?」
「…どこか嫌な予感がする。あの夏目が僕に何も言わなかった何かがあるような。」
「わかりました。」