第33章 ポアロにて
苦手なはずなのにーー…。
梓さんとにこにこ笑い合う表情だとか、2人だけしかわからない会話をしていたりするのを見ると、胸の真ん中がチクチクとした。
なんとなくムカムカとしながら、私は床を見つめながら掃除をして行った。
くすくすと聞こえる安室さんの笑い声。
「…なんで笑うんですか。」
「いや。別に。」
「もう、降谷さんに戻ってもいいんじゃないですか?」
「別に切り替えてるわけじゃないよ。」
ーー…わからない。
「それに“降谷零”になると、他の事件のことを考えなきゃならなくなる。」
「…。」
「今はポアロで、安室だよ。」
ますますわからない。
喋り方がかわるだけじゃないんだ。
穏やかな表情の安室さんとは逆に、謎が深まる上司に眉を寄せ私は掃除に専念した。
「まぁ、めぐみさんは安室と降谷の両方の恋人でもあるんだから、そのままでいいんだよ。」
「…ふたまた。」
「ふふっ。二股か。」
それは思いつかなかったな。と、安室さんは笑った。
「私は…降谷さんだけでいいです。」
「…。」
なんとなく私はそう呟いた。
同じ人ではあるけれどーー…だけど。
「…でも。なんか………。」
「ん?」
箒をぎゅっと握りしめ、私はぷいっと顔を見られないようにした。
「安室さんも…悪くない…かな。」
「ぷっ。」
安室さんがカウンターの中から私の近くに歩いてくるのがわかった。
恥ずかしくてそちらを向くことはできなかったけれど、私はじっと安室さんが前に立つのを待った。
「安室は苦手なんじゃないのかい?」
「…苦手です。降谷さんとは真反対で。」
「で?」
「でも、安室さんも降谷さんの一部なんだと思ったら…、梓さんといつもここで一緒にいるのが…なんか……」
なんて言葉に表すのが的確なのかわからない。
でも確実に胸の奥では、もやもやしてて…。
「警視庁で少ししか会えないのに、梓さんが……その…」
「……。」
「……安室さんといられて……うらやましい。」