第32章 お手伝いの前に
降谷さんは私に覆い被さったまま、頬を撫でてきたので、私も擦りようるようにその手に頬を寄せた。
「…松田のこと………」
「…?」
少し言いづらそうに、ぽそっと言う降谷さん。
「ーー…恋人か。どんなやつだった?恋人の松田は。」
そんなことを聞かれるとは思わなくて、驚いた。
私は数年前の、刑事になる前のことを一瞬で思い出したが、それを言うのはなんとなく憚られた。
「…今好きなのは降谷さんだから。」
元カレのことは言うつもりはないと、そういう意味を含めて優しくそういったつもりだったが、降谷さんは私の両手首を撫でるように押さえつけ、目を細めた。
「あんなに元カレ元カレと言ってた割に、松田のことは言わないんだな。それだけあいつが特別だったのか?」
「…え?」
そうじゃない。
前は降谷さんは恋人ではなかったから、気にしなかったけれど、今は違う。
特別な人に昔の男の人を言いたくないだけだ。
ーー…確かに松田陣平は、私が唯一振った男性だ。
それ以外は全員振られたが、彼だけは私が振った。
…ただそれだけ。
「なんか、腹立つな。」
「ふ、降谷さん?」
「あいつに負けた感じがする。」
「えぇ?勝ち負けなんて…!……んっ」
鎖骨の辺りに吐息がかかり、私はぎゅっと目を閉じた。
「前は声を抑えろと言ったが、今日は聞けるな。」
「…や…ねます…よ?」
「あぁ、寝るよ。めぐみを抱いた後で。…声。我慢するなよ?」
「……っ。」
我慢するなと言われたって、声なんて意識したことない。
会議室ではもちろん我慢したけど…。
再びお腹に手を這わせてくる降谷さんを見つめた。
おへその周りを指先が撫でていく。
「こんな短いズボン履いて。」
「…ひゃ……っ」
太ももの付け根辺りのズボンの裾をくいっと引っ張る降谷さんは、そのズボンを睨みつけた。
「宅配やらが来たとき、見られるじゃないか。」