第5章 デート
降谷さんは椅子に座ったままチラッと私を見上げた。
「…当分いいんじゃなかったのか。」
「え?いや、風見さんの資料も急ぎと聞きました。」
「そっちじゃ……はぁ。もういい。」
「…?」
手でしっしっとあしらわれ私は自分の席に戻った。
上司に聞こえないよう小さなため息をついた。
「何?何したのお前。」
「知らなーい。めっちゃ怒ってた…。くっそー、驚くくらいすぐ資料作ってやる!」
私は絶対見返してやる!という気持ちを震わせ、パソコンの画面を睨みつけた。
「残業確定っ!高橋ぃ!合コンいつ!」
「まだ決まってねぇよ。でも多分すぐ。」
「そのウキウキを糧に頑張るっ!」
「…おう。」
「癒してくれる彼氏つくる!」
待ってろ!合コン!!
と、先に風見さんの資料を死ぬ物狂いで、タイピングしていると、また、ダン!!と、大きな音が聞こえて来た。
降谷さんが足元の小さなゴミ箱を蹴飛ばしてしまったようだった。
でも、散らばったゴミを拾うのを手伝う気にはなれなくて、視線だけ向けて、私は再びパソコンに目を戻した。
足が長い人は大変だ。
高橋はゴミ拾いを手伝いに行ったようで、降谷さんの席から帰ってくるとブルブルと震えていた。
「…視線で死ぬかと思った。」
「ん?」
「今日降谷さん何かあったのか?めっちゃ睨まれた。」
「んー…ポアロで嫌な客に絡まれたとか?あ、高橋なんかしたんじゃない?」
「…覚えがねーよ。」
机で2人でコソコソと話しをしていると、降谷さんが立ち上がった。
瞬時に私達は会話をやめ、パソコンに集中してます。という雰囲気を醸し出した。
降谷さんは携帯を見るとパーカーを急に脱ぎ始めた。
部屋の端にあるロッカーから紺のシャツを来て、髪型をささっと整えると、帽子を被り出した。
「夏目。」
「はいっ!」
「帰ったら資料を見るから、パソコンに送っといてくれ。」
「わかりました。」
「それから、他にも過去の事件を見直したいものがあるから、それリスト化し、簡略にまとめたものを作ってほしい。」
「…はい。」
「夏目のパソコンにその事件を送っておいた。」
「……はい。」
「しばらくは残業してでもやるように。」
「う…はーい。」
帽子を深く被り直すと、降谷さんは部屋から出て行った。