第23章 上司 降谷零の勘違い
「あー、もしかしてめぐみの新しい彼氏さん?」
「…。」
僕は何も言わなかった。
何故こんな男にそんな事を言わなきゃいけない。
「あいつ、寝相悪いでしょ。」
「…。」
“あいつ”…。
一緒に寝た事なんてないんだから知るわけないだろう。
パジャマのような部屋着を着ているこの男はそれを知っているのか。
恋人じゃないと嫌だと言っていたのは、この男がいるからなのだな。
僕は全てを察し、男に微笑んだ。
警察関係って言っていることは、めぐみの仕事を知っていると言うことだ。
公安だということまで、言っているのかはわからないからそこは黙っておこう。
「僕は彼氏ではありませんよ、ご安心ください。これを夏目さんが机に忘れていたので持ってきただけです。」
「…そうですか。」
「生花だから今日中がいいと思って。僕はただの上司ですよ。」
「わざわざすみません。」
「いえ。それでは。」
ガーベラを中心に黄色やピンクの可愛くまとめられた小さな花束を男に渡すと、僕はめぐみの部屋を後にした。
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「ただいまー。」
玄関を開け、コンビニ袋を置くと、部屋から漂う花の香りに私は首を傾げた。
「むっちゃん?」
「あ?おかえり。」
「何の匂い?誰か来たの?」
「別に。」
「何、別にって。誰が来たの?」
ソファに深く座って携帯をいじるむっちゃんに、私は後ろから覗き込んだ。
「なんか、花の勧誘。」
「はぁ?」
なんだ、勧誘って。
「花屋が宣伝に来た。そこの水に入れてる。」
むっちゃんがキッチンを指差すと可愛い花がコップに生けられていた。
「お花屋さんが?すごい可愛いね。」
「なぁ、ねぇさんって彼氏いるの?」
「今いないけど…何。」
「ふーーん。」
弟の武蔵こと、むっちゃんはシスコンだ。
彼氏が居るだとか、好きな人がいるだとか、こいつには言わないようにしている。
「ねぇ、いつ家帰るの?」
「親父が俺に謝ったら。」
「一生無いね。」
「…。じゃあここにずっといる。」
いや、帰れよ。
と、言ったところで今は無意味だろう。
そんな弟を見つつ、私は大きなため息をついた。
キッチンの花をコップから花瓶に入れ替え、私は鼻ですーっと香りを楽しんだ。