第4章 苦手でも
私は鬼の視線の恐怖を表情に出さないように、パソコンに向き合った。
そうだ。とりあえず水を飲み干そう。
そうしたら安室さんが水を注ぎ足しに来てくれるかもしれない。
コーヒーのおかわりでもいい。
この美味しいカフェオレならまだ飲めるっ。
私はコップの水を飲み干してから、パソコンの画面を見つめた。
あらかじめウェブデザイナーらしい仕事の画面は用意していたから、この画面をつけて仕事をしているふりをした。
「お水入れときますね。」
と、来てくれたのは女性店員だった。
…くぅ、安室さんじゃなかった!
早くこのUSBを渡してしまいたい。
「ありがとうございます。」
「何のお仕事なんですか?」
おしゃべり好きのフレンドリーな店員さんは画面を覗きながら私に聞いてきた。
「ウェブデザイナーなんです。今受けてる仕事は次の春の服を売るアプリのデザインを請け負ってて。」
「春?ずいぶん先ですね。」
「服は服のデザイナーさんが写真載せていくから、私はサイトだけ。これでもギリギリなんですよ。」
「カッコいいー!」
「ふふ、ありがとうございます。」
用意していた設定をさらさらと話していく。
そして彼女の目の前でカフェオレを飲み干し、おかわりを要求した。
…うぷ。
チラッとカウンター内を見ると安室さんが私のカフェオレを作っているようだった。
下を見て作業をする姿は…ちょっとかっこいいと思ってしまった。
安室さんはカフェオレのカップをソーサーに乗せ、お盆に乗せるとカウンターから出てこちらに向かって歩いてきた。
「そんなに見られては緊張しちゃいますよ。」
「はっ。ごめんなさい。とっても美味しかったから作り方見てました。」
本当は安室さん見てたけど、そんなこと絶対に言えないので、誤魔化した。
「そんなに気に入っていただけて嬉しいです。どうぞ。」
カップを置く時にお盆を縦にしたので、その影に隠れて私はそっとUSBを差し出した。
安室さんはそれを受け取ると、「ごゆっくり」と言ってカウンターの方へと帰っていった。
…ごゆっくりって絶対思ってない。
私は熱々のカフェオレを必死で早くのみ、残りのガトーショコラを大きな口で頬張った。