第20章 初めての
黒井さんとずっと夜は練習して、昨日もここで演奏したおかげで今は私は落ち着いて演奏のができている。
薄暗いステージの上でメインとなるサックスの人の後ろで奏でる降谷さんに習ったギター。
1時ごろに標的が来るだろうと言われたが、だからと言って気を抜くつもりもない。
一人一人の客の場所と顔も頭に入れていった。
ふと、カウンター内の店員と目が合った。
昨日声をかけてきた店員だ。
ーー…あの視線少し気味が悪い。
熱を持った視線だ。
今日の仕事さえ終われば、また断りを入れればいい。
今はスムーズに行くようむしろ彼は味方につけておかないと。と、私はふわっと彼に笑顔を向けておいた。
一度休憩を入れ、再び店の端の小さなステージに立つ。
そうこうしているうちに、1時はすぐにきた。
ハットを被ったガタイのいい50歳くらいの品のある男性。
ーー…来た。あの人だ。
公安が追っている組織の幹部の1人。
店内に入っても丸いサングラスを外すことはない、その男は都合よく私たちのステージ近くの小さなテーブルに座った。
私たちの近くの方が演奏の音で会話がかき消されると思ったのだろう。
…私たちが聞いてるとも知らずに。
後から同じように入ってきた黒いコートを着込んだ小柄な男性も同じテーブルに付き、何かお酒を注文していた。
一段ステージから下がったすぐそこに標的がいる。
「…かたい。」
ハッとした。
耳元で黒井さんの声が響き、私はギターを弾く手の力を抜いた。
きっと顔は強張っていたはず。
私はチラッと黒井さんの顔を見て、微笑んだ。
対象に気を向けすぎて力が入ってた。
黒井さんの声のおかげで私はリラックスすることができ、自然に髪留めを対象の人物の方に向けることができた。