第20章 初めての
しばらく休憩して、もうすぐ二回目の演奏に行こうかと準備をしていると、控え室に店員の格好をしたバーテンダーさんが入ってきた。
「お疲れ様です。」
黒髪短髪で人当たりの良さそうな好青年だ。
私と沖矢さんもお辞儀をして返事をすると彼は椅子に座っていた私の前までやってきて、手を差し出した。
「あの…めぐみさん、でしたっけ?」
「はい。」
「さっき演奏しているのをカウンターで見てて、すごく綺麗でした…それで、その彼氏とかっていますか?」
ーー…めんどくさいのに会ってしまった。
正直そう思った。
明日のことで頭はいっぱいで、でも今日だって手を抜くことはできない今、そういったことに手を回したくない。
だけど、適当にあしらって店員との関係を悪くして、明日演奏しづらいなんてことは避けたい。
私は笑顔を絶やさず、首を振った。
「ありがとうございます。彼氏はいないんですけど、今はギターが恋人かな。」
「そうなんですね!あの、じゃあ今度よかったらご飯でも行きませんか?」
「えぇ、是非。でも今日と明日はここでお仕事だから、それが終わってからでもいいですか?」
「はい!明日仕事終わったらまたお話ししてください!」
「はい。」
にこっと笑って彼に手を振った。
控室から出て行って私は大きなため息を一つ。
横では沖矢さんが肩を揺らして笑っている。
「デートが決まったな。」
「行くわけないじゃないですか。」
「なんだ、いけばいいじゃないか。」
「名乗りもしない男なんてやーよ。」
「…。」
沖矢さんは顎に手を当て、眉を寄せた。
「そう言えば俺も名乗ってないな。」
「本名?アメリカ人でしたっけ?」
「いや、名前は普通に日本人と変わらない。」
「へぇ。」
「知りたいか?」
「大丈夫です。沖矢さんでじゅーぶんです。あ、今は黒井さんでしたっけ?」
「残念だ、名乗ればデートに誘えたのに。」
また変な冗談を、と私は鼻で笑った。
顔も名前も知らないのに。