第19章 ねぇ
「上司に話さないのは何故?」
「とある組織に命を狙われている。彼の潜入中の組織にな」
「協力は?」
「俺は彼に嫌われててな。」
ふっと笑う沖矢さんはアコーディオンを再び椅子にそっと置いた。
「上司と仲が悪いのですか?」
「君は新人なのか?」
「…まぁ。」
「なら以前の峠での出来事を知らないのか。」
「…峠?」
「知らないならいい。とりあえず降谷くんには黙っていてくれ。沖矢のことも、FBIのことも。そうすれば、週末の演奏に協力し、何かこちらもわかったことがあれば君に伝えよう。」
口を開こうとしたら、バーの扉が開けられ、私はすぐに口を閉じた
業者と話を終えたマスターが伝票を片手にお店に戻ってきた。
「いやぁすまない。意外と時間がかかってしまって。何か飲むかい?」
「いえ、すみませんマスター。ちょっと二人で食事に行こうかと話してまして。」
「…!?」
沖矢さんは話し方を戻すと、にっこり笑って私の腰に手を回した。
「いいね、ここには食事は置いてないから二人で行っておいで。またいつでも演奏しにおいでね。」
「はい。では行きましょうかめぐみさん。」
腰を押され私はニコッと笑って、彼の誘導に従った。
マスターに挨拶をしてお店の階段を上がり切ると、私は沖矢さんの手からそっと離れた。
「どうして私が公安だと気付いたんですか?」
「昨日も飲み物には手を触れなかった。」
本来お店から出されたものは公安だとしても私は口にしている。
今回はお店から出されたものであろうと、初めて会った沖矢さんと知り合いであるマスターからの飲み物には念のため手をつけなかった。
「それに、君は店に入って無意識に脱出経路を確認していた。店の非常口、俺の座った場所、椅子やテーブルの位置。俺も同じだからな。同じことをしていると気付いたよ。」
「…うそ。」
無意識だ。きっと職業病だ。
「豆ができるほどそんな興味もないギターを練習し、ジャズを弾き始めた“めぐみ“という警察関係者。調べたらすぐだったよ。」
「…。」
「それに、君が弾いていた曲は昔君の上司とその同僚から聞いたことがある。彼らの練習用のオリジナル曲だと言っていたからな。」
…それは知らなかった。彼のオリジナル曲だったなんて。
それを知っているこの沖矢というFBI。
上司とはどんな関係なのだろうかーー…。
