第16章 上司 降谷零の誤算
休みの日。
キッチンではめぐみが僕に背を向け、昼食の準備をしてくれていた。
先日約束をしていた食事を作ってもらっている。
手伝おうと申し出たのだが、見られるのは嫌いだと横に立つことを断られた。
テーブルに座って携帯をいじりながら、後ろ姿のめぐみを盗み見た。
つい笑みが漏れるーー…
仕事で疲れた時にキッチンから聞こえてくる料理の音は、心も体も癒してくれた。
「苦手な食べ物ありますか?」
「ない。任せるよ。」
「はい。」
休みの日くらい、プライベートなのだから敬語でなくてもいいのだが、だからと言ってめぐみのことだから、すぐには無理だろうな。
手際がいいめぐみは、つぎつぎ料理を仕上げていく。
ヒロもこんな感じだったなと、ふと思い出した。
しかし、実家が旅館だというめぐみの料理ほうが、少し優しい味に感じた。
揚げ出し豆腐や魚の煮付けなどを並べ、使った道具も洗って片付けていくめぐみの後ろに立った。
「ふ、降谷さん…。あ、どうぞ召し上がっててください。」
「ありがとう、めぐみ。」
サラッと髪を撫で、腰に手を回し引き寄せると、途端めぐみは顔を赤らめ強く僕を押し退けようとした。
「ひゃっ…だ、ダメです。降谷さん。」
照れているのだろうと、頬にキスを落とすと僕の二の腕に手を添えそれでも逃れようと必死になっていた。
「…こ、これはお詫びに含まれませんっ。」
「…?」
確かに料理を作るとあの小屋の中で約束はした。
せっかく想いが通じ合った最初の休みの日なのだから、少しくらい触れたいと思ったが、めぐみには早かっただろうか。