第16章 上司 降谷零の誤算
それでも、エプロン姿で僕のために料理をしてくれるポニーテール姿のめぐみを見て、手を出してしまうのは仕方のないことだと思う。
こめかみあたりにキスを落とし、頬に手をやり上を向かせた。
「…めぐみ。」
「ふ、るやさんっ。ダメですって。」
もう少しでキス出来ると思った瞬間、僕の唇にめぐみの手のひらが添えられた。
「や…やっぱりこう言うのは恋人同士ですべきだと思うんです!」
頭に岩が落ちてきたような衝撃だった。
ーー…想いが通じ合ったから、あの時キスしたんじゃ無いのか。
あんな…あんなキスをしたのに。
名前で呼んで、なんて恋人にしか言わないとーー…!
「あの時は…あの…寒くて甘えちゃって…」
もう一回って、キスをねだってきたのに…?
じゃあ、今の僕はなんだ。
上司が無理矢理休みの日に料理をさせて、セクハラしてる最悪な男じゃないか。
めぐみには…そう見えているのか。
あまりに衝撃に固まっていると、めぐみが僕の腕の中からそっと離れた。
「降谷さん…彼女さんにそういうのはしてあげてください……。」
彼女なんていないのに…?
むしろ、この前の小屋の出来事で、めぐみと恋人同士になったとさえ思ったのに。
「あの…今日はじゃあ、この辺で帰ります。」
少し顔を赤らめながら、めぐみはエプロンを外しカバンにしまうとさっさと靴を履いて部屋から出て行った。
『ただの部下にこんなことしない』と思いを告げたつもりだったんだがー…。
誤算だ。
めぐみがまかさここまでこんなにも鈍く、あざとい女だったとは。