第16章 上司 降谷零の誤算
「……好き。」
「…っ!」
パーティー会場に潜入中に、公安なら恋人のフリくらいこなしてみせろと言えば、僕の服を掴み僕の顔を見て夏目は小さくそう呟いた。僕はすぐさま夏目の後頭部を押さえて、無理矢理下を向かせた。
…おかしい。
恋人のように振る舞えと確かに言った。
確かに言ったが……、こんな夏目になんかに動揺するなんて!この僕が!
夏目の目を見ていられなくなって、無理矢理夏目の頭を掴んで下を向かせたが…しまった。
変に思われただろうか。
合コンの時だってそうだった。
少し近づいただけで、顔を赤らめ僕の脇腹や腕を軽く押してくるあざとい女だった。
そんなのに…そんなのに引っかかるはずない。
頭でぐるぐると考え、今の状況をもう一度把握し直し冷静さを取り戻すと夏目を壁に胸で押し付けてやった。
腕の中で慌てふためいてもぞもぞする夏目を、こうも可愛いだなんて絶対に口にしないし、認めるつもりもない。
この時はまだその程度だった。はずだったのにーー…
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影月が入った時の様子は風見から報告を受けていた。
仕事はできるが、ちょっとクセがありそうだと。
何度か、廊下で夏目にいいよる影月の姿は確認していたし、二人きりの執務室で影月が熱烈に告白をするのを何度か耳にしていた。
だからと言って上司である僕が私情に口を挟むわけにもいかない。
当事者同士の問題だし、仕事は二人ともきちんとこなしていたからだ。
夏目が本当に困っているようなら、助けてやるつもりだった。
ーー…あんなふうに素直に自分の気持ちを伝えられるのは凄いとは思う。