第14章 彼氏
電話の相手は降谷さんだった。
『夏目、悪い仕事してたか?』
「いえ。大丈夫です。」
『今ポアロにいるんだが、ちょっと車で来れないか?』
お酒を飲んでしまっているので、もちろん車では無理だ。
『車がパンクしてしまって、タクシーを呼んだんだが、出払ってすぐに来れないらしいんだ。』
「すみません…私も今お酒飲んじゃって…あ、でも駅前にいるんでタクシーなら拾いやすいかもしれないです、すぐ…」
「めぐみ。さっきは急に悪かった。でも俺とのこと考えといてくれないか。」
「ちょ…待ってて、今電話中。」
急に高橋が後ろから話しかけてきて、私は慌てて電話のスピーカーの所を手のひらで押さえた。
『高橋と飲んでるのか?』
「え?は、はい。なのですぐいけます。ポアロですか?」
『…いや、いい。悪かったな邪魔して。』
そう言って,電話を切られてしまった。
私は急いで折り返し電話をかけたが、降谷さんが電話に出ることはなかった。
「悪い、大事な電話だったか?」
「うん…降谷さん。でも切られちゃった。」
「え。き、聞かれたかな。」
「内容を聞かれたかはわからないけど、声で高橋ってことはわかってたよ。」
「……。」
高橋は少し困ったような表情をした。
「今日は帰ろっか。ごめんね。」
高橋からの思いがけない言葉に、お酒のせいもあって思考も働かない私は荷物を机に取りに行きコートを着込んだ。
「急にごめん。でも…」
「高橋、ゆっくり考えさせて?ごめん。」
いつも馬鹿みたいに話をして、私にとっては頼もしい仕事相手だった。
こんな謝り合うなんて…。
『さっきの冗談!お前を驚かせたかったんだよ!』って言って欲しい。
私は早足でお店から逃げるように出て行った。
「もう、頭パンクしそう。…仕事だけしてたい。」
白い息が出る寒い夜に私は空を見上げながらそう呟いた。