第13章 策略
「それから、小井崎さんは今回のことで殉職扱いに変わりましたので、二階級特進して“警視”になりました。」
「警視…。」
「いつか、奥様と娘さんから“警部”って呼ばれてみたいってずっと言ってたんですよ。」
「通り過ぎちゃったわね。」
「そうですね。」
「小井崎警視…ふふっ、似合わなくて笑っちゃう。ネクタイもキチンと出来ないような人なのに。娘が学校から帰ってきたら一緒に揶揄おうと思います。今日はありがとう。夏目さん。」
「いえ。」
私は警視庁に帰ろうと、玄関に向かった。
「また、必要な書類が整いましたら郵送します。」
「よろしくお願いします。…こうやって会いにきてくれたり、電話をかけてくれたり…2年経っても気にかけてくれる仕事仲間に恵まれていたんだと思うと、嬉しいわ。またいつでもいらしてね?」
「はいっ。」
私は深く頭を下げると、小井崎さんの奥さんに別れを告げた。
道の角を曲がり、私は立ち止まった。
もう、ここまで歩けば見えないだろう。
「…。」
ふーーっと息を吐いた。
少しやつれて白髪の増えた奥さんの無理して笑う笑顔が脳裏から離れない。
犯人は警察で、証拠を消し、捜査もしてこなかった警察なんて本当なら憎くて仕方ないんじゃないだろうか。
二階級特進して、遺族への補償額が増えたって、彼は帰ってなんか来ない。
それなのにーー…
『仕事仲間に恵まれて嬉しいわ』
奥さんは笑ってお礼を言ってくれた。
「夏目。」
「…っ!降谷さん。なんで。」
「奥さんと会うことはできないが、僕も近くで手を合わせたかったんだ。僕の教官でもあるから。」
「…そう、ですか。」
泣きそうな顔を見られたくなくて、私はそっと彼から視線を外した。