第12章 キス
少しずつ1日かけてゆっくり仕上げた手書きの資料を高橋に託し、帰宅した私はお風呂上がりにタオルで髪の毛を拭きながら、ソファに腰掛けた。
「はぁ…。」
ーー…ストレスだ。
今もスマホから盗聴されてるんだろうか。
家にいると分かったらもう聞いてない?
私、前は家でどんなことしてたっけ。
盗聴を気にしすぎてるんだろうか。
不安になってくるとどうしたら良いのかだんだんわからなくなってくる。
今も聞かれているのか聞かれていないのかという、強いストレスにお腹が痛くなりそうだった。
「小井崎さん…。」
私は囮だ。
小井崎さんの事件をいまだに追っているのか、どっちなのかを相手にも考えさせないといけない。
事件をいまだに捜査しているバレたら私が殺されるし、手を引いたのだとはっきり分かってしまうと今度は私から目が離れ、降谷さん達が捜査しづらくなる。
この微妙なラインをプライベートな空間である今でも演じなければならないのが苦痛でしかたなかった。
ーー…私は公安だ。このくらいやってのけろ。
「ご飯でも作ろ。」
無心で料理をしていれば変なこと考えなくてもいい。
私は立ち上がり、キッチンに向かった。
我が家のキッチンは一人暮らしには充分なほどの大きさと道具が揃ってる。
美味しいもの食べるのも作るのも好き。
私はひたすら料理を作り続けた。
出来れば日持ちするものがいい。誰かに振る舞うのも好きだ。
前の彼氏にお弁当を渡した時に嬉しそうに笑って受け取ってもらって嬉しかった。
ーー…降谷さんも前すごい食べてくれて嬉しかったな。
「はっ!あぁ、もうダメダメ!」
降谷さんには別に彼氏として振る舞ったわけじゃない。
あれは…仕方なくだ。
確かにあんな風にガツガツ食べてくれて、おかわりもしてくれたら…作り甲斐はあるけれども…。
私は卵をかき混ぜながら、また頭を振って降谷さんを忘れようとした。