第1章 普通の日常
花子 side
私の人生は今のところ本当に普通だと思う。仕事して、友達と遊んで…それの繰り返し。1つ違うと言えば…。
「またね、花子ちゃん。」
「今日は、ありがとうございます。また、お店に遊びに来てくださいね。」
気紛れで足を踏み入れた夜の世界。これが思ったより楽しくて、気付けばズブズブと抜け出せなくなっていた。昼も仕事をして身体は疲れるけど、この仕事自体は好きだ。
(思ったより、早く終わったなぁ…。)
時間は午前2時。このまま帰るのが身体にも良いけどお酒も入ってるし、何だか帰りたく無くて私はいつもの場所に足を向けた。
ーーーーーー
「いらっしゃいませ。」
「お疲れ様~、マスター!」
小粋の良いベルの音と共に扉を開けるとカウンターの中ではマスターがにっこりと微笑み出迎えてくれた。
「お疲れ様。今日は、仕事?」
「うん。さっきアフター終わったところ~…。」
席に座るとおしぼりを渡される。いつもの物を頼むとマスターは手際良くグラスにお酒を注ぎ私の前に出してくれた。
「マスターも飲んで。」
「いただきます。…灰皿は?」
「禁煙してるって言ったでしょ~!」
戯けた顔で灰皿を差し出そうとするマスターをジトリと睨むと、可笑しそうにそれは引っ込められた。本当に意地悪だなぁ。
「ごめん、ごめん。はい、お疲れ様。」
「お疲れ様~。」
カチリとグラスを傾けお酒を流し込む。その瞬間、身体の力が一気に抜けた気がする。
「何かあった?」
「別にぃ~…。」
思い出すのは昼間、友達から来たメール。子供が生まれたと旦那さんと子供3人、幸せそうな写真。
「ねぇ、マスター。私って魅力無い?」
「どうした?突然。」
こちとら禁煙中だってのにお構い無しに煙草に火を着けるマスターは、きょとんとした顔をしている。でも、その煙が今は心地が良い。
「花子は可愛いと思うよ。良い子だし。」
「はい、出たぁ~!」
周りは私の事を良い子だと言う。でも、それは違う。【良い子】だと思われたいから、良い子にする。当たり前の事だけど…たまにそれが酷く息苦しい。
「花子は気を使い過ぎ。もっと力抜けって。」
「それが出来たらやってる…。」
周りに嫌われたくない、迷惑を掛けたくない。そう思うとどうしても気を張ってしまう。