第15章 どなたでしょうか
さて、梯子を登りきったローが次へ向かうは食堂。
と言ってもこの船の構造上、食堂へ行くにはその手前のリビングルームを経由しなければならない。
なのでローはひとまずリビングルームに向かった。
憩いの場で寛ぐ数人のクルー達。
読書をしたり、談笑をしたり…各々静かに自分の時間を過ごしている。
「キャプテン、お疲れっス。」
「あぁ。」
「お疲れっス。」
「あぁ。」
「お疲れ様っス。」
「あぁ。」
通りざまに掛けられる労いの言葉に短く返事をしつつ、ローはリビングルームを通過した。
遅い時間だから自粛しているのだろう。
自分としては、夜こうして静かだと大変助かる。
そう、基本的にこの船のクルー達ら皆夜は静かなのだ。
ただしこの2人を除いては……
「クッソ…!今日だけで俺のとこに30回はババ来てンぞ…!?」
「だーっ!はっは!本当にお前は心理戦に弱いなぁ!」
さっきの静けさは一体どこへ…
耳を覆いたくなるような騒がしさにローは堪らずため息を吐いた。
「ペンギン、お前がいつもイカサマするからだろ!真剣にやれよ!」
「いーや!俺はいつだって真剣だ!」
2人の熱は更にヒートアップしていくばかり。
同じ空間にローがいるなんて微塵も思っていない。
「テメェ…これで何度目だ!?ふざけんなッ!」
「ひゃっほーう!ざまぁみろシャチ!毎回騙されるお前が悪い!悔しいなら俺に勝てばいいだけの話だろ?」
さすがにこのままだと朝を迎えそうな予感がしてきた…
目頭をギュッと抑えたローは一つ呼吸を整えた。
「…おい。」
聞き覚えのある声に2人は声の方を見やる。
「どぇっ!?キャプテン…!!?」
「キャプテンいつの間にそこにいたンすか!」
丸い目をした2人がローの切れ長い瞳に映る。
「お前ェら…いつも2人でババ抜きなんてやってんのか?」
「「はい。」」
まるで至極当然とでも言うように口ぶりを合わせた2人。
ローはこれでもかと言うほど冷たい視線を向けた。
「えっ、ちょ!なんすか!」
その視線に耐えきれなくなったペンギンがすかさず次の言葉を急かす。
「いや…」
言いたいことは山ほどある。
それなのにどれも真面目に言ってしまえば2人と同等になるような気がしてローは口を噤んだ。