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魔法の手【ONE PIECE】

第15章 どなたでしょうか



『そういうところも好きだよ』

蘇る記憶がローの心臓をぎゅっと掴んだ。


そういえばあの時も…コノハは少し恥ずかしそうに目尻を下げて笑っていた。

それなのに俺は…

「…コノハに何をしようとしてた……?」


怪訝な目が見つめる先は置かれた医学書。

「それじゃあこれに書いてあることと同じじゃねェか…」

ついさっきまで俺は…
私利私欲に走り、アイツから笑顔を奪おうとしていた。

あまつさえこの医学書に書いてある通り、原因となった記憶に直面させようとしていた。


そんな自分の身勝手さに、顔から血の気が引いていく。


元はと言えば自分が始めた嘘。
それならこのまま…吐き通すしかない。

愛しているからこそ、嘘を吐いた。

それは何故だ?
守らなければならないから。

そう、コラさんが自分にそうしてくれたように。

愛しているのなら、自分を犠牲にしてまで守らなければ。


今のローは驚くほど冷静だ。

僅かに残っていた理性がローの思いを踏み止まらせた。


例え自分を覚えていなくても…
例え振り出しに戻っても…

それが何度繰り返されようと、コノハを必ず……


「落としてやる。」

まるで自分へ向けたようにローは静かに呟いた。

そんなローの目は、まさに奪うことを生業にする海賊の目だ。


あの時だって…島から出ることを拒否していたコノハを奪うように船に乗せたのは他の誰でもない自分だった。

状況は少し違えど、またコノハの心も体も奪えばいい。

それだけのこと。


ここまで来れば、今後どうコノハと接していけばいいのかは単純明快だ。

このままクルーとして接していき、ゆくゆくはこの手に落とす。

こんなに簡単なことがどうして思い付かなかったのか…

感情一つに振り回され、決断を鈍らせるとは。
随分と人間らしくなったなとローは自嘲気味に笑った。


ローは伸びていた足を折り畳み、床を蹴るようにして立ち上がった。

そしてソファーの隅に追いやられた医学書をしばらく見つめ、それを手に取り本棚の一番端に押し込んだ。

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