第1章 てめェ何しやがる
「悪いが、この宝は全て俺らが貰う。」
お世辞にも目付きが良いと言えないその人物は目の前で蹲っている男に刺すような視線を送る。
「絶対にっ…、覚えておけよ!!!」
蹲っていた男は観念したのか負傷したであろう足を引きずりながら、その場を急ぎ足で去って行った。
今目に映っている現状にコノハは、目を隠すべきなのか口元を覆うべきなのか、そしてここからどう出ようかと悩んでいた。
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時は少し遡り、同日の朝。
ホッ島の眩しい朝日に誘われて目を擦りながら体を起こすコノハ。
カーテンを開け窓を全開にすると、潮の匂いを乗せた風が彼女を包む。
「ん〜、おはよう〜。気持ちのいい朝だ〜。」
目一杯に吸い込んで大きく伸びをすると身支度を始める。
「今日の朝ご飯は味噌汁とおにぎりにしよう。」
自分の一言で決まった朝食。
食べ終えたコノハは、家を後にするといつもの小道を通りいつもの場所に向かった。
そこは小さな森。
目的の場所に着くと周りを見渡し、昨日枯れていた花に近付く。
「元気になって良かったねえ。」
手を伸ばしその花に触れると、元気になったよと言わんばかりに、風に揺られて楽しそうにしている。
(あの子は元気が無さそう。早く元気になってね。)
心の中で呟きながら願い、今にも枯れそうな花に触れると、まるで咲き始めかのようにみるみると水分を戻し、先ほどの花と同じように揺られて楽しそうにする。
その姿を見て嬉しくなり、心が温かくなり無意識に目尻を下げるコノハ。
だけどこの力は、ひげじいと私だけの秘密。
きっと村の人たちに知られたら怖がられて嫌われる。
だからずっと自分の心にしまっておこうと思うコノハ。
まさかこのあと、人にその秘密を話すだなんて想像すらしていなかった。