第2章 そうやって、笑うんですね
空腹を誘うような美味しそうな香り。
そして右腕に暖かい感触がある事に気付き、薄らと目を開ける。
「…う〜ん。結構跡になっちゃった…。うっ血しちゃってるなー。」
一人でブツブツ言いながら自分が噛んだ跡を指でなぞるように触る女。
その姿を目にし、驚きとその無防備な格好にローの目が勢いよく開いた。
「…そこで何している。」
「っ、わぁ!?」
冷静を装うようにそう言うと、起きていた事に驚いたのかその女は驚き床に尻餅をついた。
どれぐらい寝たのか、気付くとテーブルには女が作ったご飯が並べられていた。
床に転がる女に目をやると、風呂に入ったのか石鹸の匂いを纏わせ髪は濡れている。
日頃から睡眠の浅い自分が、しかも初めて会った女の家で、少なくとも1時間は寝てしまったであろう事実に内心驚いた。
女は風呂に入ったからか顔がほんのり赤く色付き、大きめのTシャツの下にはズボンを履いていない。
パーカーの裾からは白い太ももが顔を覗かせていて、あまりにも無防備とも言えるその格好にドキリと胸が鳴った。
「…お前。平気で知らない男を家にあげるといい、男が寝ている間に風呂に入るといい、おまけにその格好はなんなんだ。」
女は言葉の意味を理解していないのか首を傾げながら自分を見上げる。
「……いや、そうじゃねェ。お前が噛み付いてきたんだろうが。何勝手に診察してやがる。」
なんとも無防備な女に何から伝えれば良かったのかと思いながらも、ため息を吐きながらこめかみを揉む。
「???あっ、すいません!うっ血してるなと思って反省していました。あと、お目汚しいですね、失礼しました!」
急いでズボンを履きに行く女の走る音を聞きながら、自問自答を繰り返すロー。
(…男がいるのに平気であの格好するなんて誘っているのか?いや、ただ男と接する事が無さすぎて感覚が麻痺しているんだろう。
だとしても無防備すぎるだろうが。
……ったく、そんな事はどうでもいい。それにしても忙しいヤツだ。)
船の上での生活が長い事もあり、溜まるものも溜まる。
彼女を見て胸が鳴ったのはただ自分が欲求不満なだけだとこの時は思い込んでいた。
(…まぁ、ガキ相手になんとも思わないが。)
ローはもう一度椅子に座り直し、女を待つことにした。