第18章 死がふたりを分かつとも
穏やかな風が凪いでいる。
すぐ近くにビーチがあるからかもしれない。 それでも日本と違い、青々と芝がひかれた解放的な明るい雰囲気ではある。
街路樹によくあるプラタナスなどと似た品種だろうか。 植わっている木を見あげそんな風に思いながら、透子は心地よい葉擦れの音に耳を澄ませた。
「────変わらず良い場所です。 墓地とはいえ、辛気臭さがない」
一つに括った長い髪をひるがえし、三田村が吹く潮風にほのかな笑みをこぼした。
「そうですね………十回忌ともなれば。 こうやって皆さんに一度にお会いできて嬉しいです。 ありがとうございます」
「ふふ。 礼などとは変な話ですわ。 それに、殆どの者は今も透子様のお傍におりますでしょう?」
相応に歳を取ったというのにこの人の絢爛な風情は変わらない────桜木が軽く首をかしげて透子に視線を向けた。
その隣では彼女以上に年齢不詳な美和が黒のフレアスカートの裾をはためかせ口を開く。
「ワタシと透子様の子供の子守りを日本で頼んでいる青木様には申し訳ないですケドねえ。 でも、なぜアメリカを選んだのデスか? ワタシはてっきり日本でなければイギリスかと」
誰に向けたとも知れない美和の疑問に、彼女らより墓前に進み出たエマが抱えていた白い百合の花束を見下ろした。