第18章 死がふたりを分かつとも
『その動画は速報だが、各社員名簿を確認し、親族などの安否の要があれば、各上長に申し出ること。 詳細や取締役の容態については今後各メディアにて発表があるだろう。 取締役代理によって八神の各社への影響は最小限に抑えるつもりだ。 各自取り乱すことなく、業務を遂行してほしい────以上だ』
息を詰めて聞いていた透子が深くそれを吐いた。
再び手を動かし始めた透子が業務に戻るも、佐々木はその場から動かなかった。
パタパタ、パタパタとデスクの上に水粒がこぼれ落ちていった。
透子のぼやけた視界の中に、無言の佐々木が手を伸ばして書類をデスクの端へと移動させるのが見えた。
返信のメールを打ちながら透子が画面に向かって口を開いた。
至極冷静な声に自分には聞こえていたが、ただ涙だけが次から次へと頬を濡らした。
「いつもみたいにイヤらしく聞いてますか。 静さん、どうやら私のお腹には赤ちゃんがいるみたいです。 どうか頑張って下さい。 皆さんも頑張っています。 私も耐えます。 会いに行きたい気持ちを耐えます。 無い貴方の手となりますから。 だからどうか、安心して戻ってきてください」
聞こえますか。
聞こえますか。
分かりますか。
京吾と青木の思い。
桜木の悲しみ。
三田村の怒り。
美和の忍耐。
「白井………様」
静が作りあげる人生の軌跡はこれからも続くはずだ。
彼の未来は幸福に輝くものでなければならない。
「でなければ、静さんは『負け』ですね? そして、私は生涯そんな貴方を許しませんから」
薬指のリングに目をやり、すると「フン」と透子を鼻で笑う静の声が聞こえたような気がした。