第17章 I love you と言わない*
『まだまだあります。 たくさんの人が八神さんを分かってくれますように』
するとピタ、と京吾の動きが止まり笑いを止めた。
調子に乗りすぎただろうか。 透子が口を閉じて肩をすくめた。
『わたしはそんなものは望んではいないし………そもそも、キミの目的とは他人事ばかりだな』
『好きな人が笑顔でないと私は幸せじゃないんです』
『………くだらんな。 わたしはきみを利用しているに過ぎない』
『それでもです』
京吾の顔が和らいでみえる。
ここには自分の他に誰もいないからだろうか。
『しかし少し気がかりがある。 静の向かった中に現状内戦が激しい所が含まれているのが………きみはその話を?』
『い、いいえ』
透子が当惑して首を横に振った。
何も聞いてない。
そもそも静は普段から仕事の話をするタイプではないし。
『そうか。 まあ、あの子のことだ。 そんなものを心配させない為にもきみに無理難題を残していったのだろう? うちの守衛には話をつけておいた。 心置きなく静の役に立つといい』
『あっ、ありがとうございます!』
嫌味っぽい言い方だったが、透子が嬉しそうに返したので一瞬拍子抜けした様子の京吾の口元がゆるんだ。
『フフ………本当にきみは面白い。 静の帰国が楽しみだ』
そんな彼の表情は静とどこか似ていた。
昼のやり取りを思い出しながら、小さく息をついた透子が奮起するために大きく伸びをした。
「ん! やるぞ!!」
大きな独り言をいい、書類を一束運んで机の端に静人形を座らせ、仕事に取りかかり始めた。