第17章 I love you と言わない*
静が体から出ていったあと、しばらく抱き合っていた。
その余韻がゆるみかけ透子はようやくと口を開いた。
「………わ、私は…貴方の、もの……です」
するとこめかみの辺りに静の唇の感触を感じた。
透子はずっと目を閉じていた。
『行くな』なんて思わない。
ただ、長い時間一緒にいてからの彼の不在はやはり痛い。
やんややんやと言いつつも、静といれば居るほど安らぐ自分にとっくに気付いてる。
妙なことを口走りそうで透子は静の顔を見れずにいた。
「分かっている。 寂しい想いをさせて済まない」
それを見透かしているかのように静が小さく謝った。
それから彼が服装を整える衣擦れの音が聴こえた。「では、一週間後に」と言って社長室をあとにした。
静が去ったあとに目を開いて、透子は少しの間出口の扉をぼんやりと眺めていた。
自分の体を見下ろし、肌と、未だ内部に留まる彼の『跡』。
自分も、おそらく彼も『残される方が寂しい』そう知っているんだろう。
彼の残したいくつもの跡は、きっとそんな理由だったのだろう。
自分の寂しさと、彼の優しさ。
いつの日か、そんなものが必要とならなくなければいいと思う反面。
ずっとこうして欲しいと思う自分がいる。