第17章 I love you と言わない*
「お帰りなさいませ────静様、透子様」
久しぶりに戻った目黒邸では青木、桜木、美和と三田村が横並びになり家の前に並んでいた。
全員黒の、いつもの従業員服である。
それをみて改めて感慨深い気持ちになりながら「ただいま帰りました」と透子が挨拶を返した。
「分かっているとは思うが。 キミの住まいは今後もここだ。 電車の通っている時間に通勤や帰宅が出来ないことも多いからな」
「はい」
それなら仕方がないのだろう。 透子が頷いた。
「皆もホテルや留守の間はご苦労だった。 俺は出張の準備諸々があるからここで」
そう言った静がまた車のエンジンをかけた。
もう完全に仕事モードの顔だ。
と、青木が素早く前に進み出て静に声をかける。
「静様、それならばリムジンにお乗り換えを」
「………そうだな。 日付が変わるまでには帰るから…そしたら透子、昨晩の続きを」
ふと表情をゆるめた静がやや上気した頬でそう言いかけ、透子の顔を見て口をつぐんだ。
「イッテラッシャイマセ(棒)」
これでも透子は昨晩じゃない今朝だふざけるな、と言いたくなるのを堪えたつもりだ。
「…う、うむ。 では行ってくる」ぐるりとみなを見渡した静が慌ただしくその場を去っていった。
「まあ相変わらず………お茶のひとつでも飲んでから出かけなさればよろしいのに」
「デモ静様ってば、いつもにも増してキラッキラなのデスねえ!」
「ここ最近の静様のご様子からはまるで別人のようですな」
チラと透子の方を見てはうんうんと頷き、ニコニコ顔の面々である。