第16章 大人の遊戯*
………静が相変わらず大げさなセリフをベッドで囁いている。
「初めてキミとたくさんの時を二人っきりで過ごした日々を俺は生涯忘れない。 もしもキミもそうだと思ってくれたのなら、贈り物としてはブラックカードよりも及第点というところか」
「………」
横たわった彼が腕に載せた透子の髪を優しく梳いていた。
「つい何度もキミを求めてしまったかな」
屍のようになった透子からは返事がなかった。
そんな透子の額にキスをしたあと静が肩を抱き寄せる。
「美和のコレのお陰でキミが途中で根を上げずに済んだ。 だがこれ以上は寝不足になるな?」
そういえば、帰ってきた時間は何時だったか、と透子がぼんやりと考えていた。
たしか日が落ちてまもなくのはず………そして今は空が白みはじめている。
寝不足ならまだいい。
「いえ…死ぬと思い…ます」
「フフ…かわいい冗談を。 また存分に愛を確かめあおう────おやすみ」
喉が渇いたが、透子にはキッチンに行く体力もそれを静にお願いする気力ものこっていなかった。
足腰が立たなくなるとはこのことだ。
一体何時間すれば気が済むのだろう、このエロ大王は。 とはいえ。
『俺は明後日から一週間海外出張だから…キミをよく覚えておきたいのだ』
などと寂しそうに言われると透子は弱い。
何とか横に体の向きを変え、穏やかに眠る静に見入る。
相変わらず綺麗な寝顔だと思った。
まばらな長く細いまつ毛が広い稜線のまぶたに影を作っている。 すっきりとした、だがどこか甘さが残って品のある。
こんな人が自分の恋人だと思うと不思議な気持ちになる。
そういえば合間に『キミの待遇の話をしていなかったが。 その間を査定期間としよう』などとも言っていた。
────何にしろ、二人っきりの甘い時間は当面お預けということだ。
パチパチと小さく音を立てる暖炉が眠気を誘う。
「………私もとても楽しかったです。 素敵なプレゼントをありがとうございました」
そう小さく言って、静の滑らかな胸に潜り込んだ透子が目を閉じた。