第15章 届かない天空をのぞむ*
お風呂上がりのいい香りと温かな感触についうっとりしそうになるものの。
「ところで静さん? 昨晩のことですけどあの薬」
回された腕にぐぐと力を込め透子が剣のある声音を作る。 それに対して鷹揚な声が頭の上から降ってきた。
「ン…何か? ああいうものは少しずつ用量を試してみなくては分からないだろう」
「だからってだからって、私に断りもなく」
「あれは強壮の役目があるし、俺が飲んでも全く良いんだが。 するとキミが延々と俺の相手をしてくれるのか?」
「………」
まぜるな危険。 そんなものは猛獣に血の匂いを嗅がせることに等しい────透子が無言で固まった。
「それに少々、効用に興味があってな。 残りの半錠は実は三田村に飲ませてみた。 しかしキミと違い全く彼女には効かなかったようだ。 彼女も開発されれば変わるのかも知れないが…俺が思うに、あれは個人の性質に左右されるものだろう」
「………性質」
静の顔がすすと降りてきて、透子の耳に口を寄せ艶のある声を小さく口にした。
「昨晩のキミはいつもにも増して」
「わああああ!! も、もういいです!」
手をブンブン振り回し、耳まで真っ赤になっている透子を離した静が低く笑いながらキッチンへと足を運ぶ。
「フフッ…では朝食の準備をしようか。 ところで、ワイングラス半分でキミがあんなになるとは思わなかった。 俺の前以外では飲まないこと。 酒には十二分に気をつけたまえ」
「ううっ………はい」
逆にたしなめられ、小さく返事をする透子だった。