第12章 救いとは
スクランブル交差点に差し掛かり、信号を待っていた透子がビルの隙間に吹く冷たい北風に首をすくませた。
キリスト教の布教活動をしているらしい人のかたまりの方から、昔聴き慣れたフレーズが聴こえてきた。
『……見られたくないという、心の闇を、誰もが抱えているのではないでしょうか……神に救われるとは、そんな良心の呵責や罪責感からの解放……つまり、罪の責めを受けない状態になる、ということです……』
ふと思い付き、スマホを取り出し文字を打つ。
「静さんのお父さんに会ったこと、桜木さんに報告しなきゃ」
『いいか、これ以上静には近付くな────』
あれは明らかに牽制だった。
彼の肉親に良く思われていないことについては気が重い。
だが、たとえあの時彼に媚びても、粗探しの材料を与えるだけだっただろう。 そう思い直し透子が気持ちを切り替え、また歩き出す。