第11章 奪い、与え、守る*
空港に向かうというエマたちを透子らは門の前で見送った。
「世話になったね。 息子も無事戻ってきたし、ありがとう! 八神の事は吹っ切ってやっていくよ」
養育費は支払われると聞いている。
少なくとも金銭という面では八神家は困っていないだろうし、彼女が日本に来たのは丸っきり無駄ではなかったのかもしれない。
「ここの家の、あんたの恋人………静って人にもよろしく。 話しかけようとしたんだけどさ。 なんかここんとこ、話しづらい雰囲気ってかね」
透子はそれには触れず、また連絡し合おうと握手をし、エマと別れた。
アメリカではfacebookが主流だと聞き、アカウントを作成して早速メッセージを送る。
「………」
スマホを閉じ、静の部屋の長椅子で膝を抱きこんだ。
エマの息子が戻ってきて良かったと思う。
『祖父は俺とすげ替えるつもりなのかも』
そんな事にならなくて、良かったと。
………あの晩、静は眠る間際にいったが、同情するなという方が無理だった。
彼の生き方を否定するのではなく、静に見舞われた不運に対して。
昨晩も、一昨日の晩も、静はいつもよりは早めに帰宅し透子を抱いた。
それは静の出自を聞いた夜にされたのと同じ種類のものだった────最中に手首をきつく掴まれすぎたため、今朝になっても痛みが消えない。
それなのに、静の態度はどこか余所余所しい。
体を重ねる回数が増えて、言葉が減っていく。
『キミが話せと言ったから話したまで』
透子は彼を拒めなかった。